バンリの箱庭

あの世とこの世とその狭間:萬道研究会

【第一の人生】55の章

*登場人物*

・萬里→村さんに刀の浄化をしてもらう主婦(叔父ちゃんの病気をどうにか治してあげて欲しいと願っている)

・叔父ちゃん→闘病中(萬里一番仲良しの叔母ちゃんの夫、この家に入り浸ることが多い)

・おみ→萬里の従兄弟(長男)暴れん坊だけど、根は真面目。長男気質

・あき→萬里の従兄弟(次男)割と柔和な感じ。兄弟のつなぎ役的存在。走り屋

・村さん→鹿児島のスーパー緩いサラリーマン(裏の顔は超凄い能力者、萬里の中では一番)

 

 

刀を手にした

村さんの長い沈黙

 

こんだけの因縁持った刀なら

そう簡単には終わらないよね

 

みんな静かに見守っている

 

村さん「ふぅ〜。

長い時間この刀の中に居たようで、

随分往生際が悪かったですよ〜」

 

萬里「え?え?

もう、終わったんですか?

ちゃんと居なくなったんですか?」

 

村さん「はい、

私の後ろの方が強制退去させました

あはは〜

もう、ただの刀ですよ。」

 

おみ「はぁ、良かった。」

 

あき「これで父の病気は

なんとかなるんでしょうかね?」

 

村さん「そこはなんとも言えません、

闘病が長かったのであれば

それなりに現実的な

肉体的ダメージはあるでしょうから。

そこからの回復は

ご本人の体力次第と

ピタッと合った治療に出会えるか?

かもしれませんし。」

 

おみ「そうですね。

複雑にいくつかの病状が重なって

いるようだし。」

 

あき「でも、できることから

一つずつやっていけば

少しは改善するかもよ。」

 

萬里「そうね、叔父ちゃん、

家族の想いがわかってるけん

みんながこれが良いよ!

あれが良いよ!ての

一つも拒否せず試してるし

 

この治療も、あの治療も

やってみようって

頑張ってるもんね。

 

周りの家族は、

やるだけのことはやって

支えていくしかないしね。」

 

村さん「そうですか〜。

ご本人、身体は弱ってても

気力はすごくあるようですから

前向きに考えるしかないですね。」

 

萬里「ところで。

その刀、この後どうすんのちゅん

 

村さん「私、色々お預かりして

お焚き上げしてきましたけど、

これは引き受けたくないですよ〜」

 

おみ「さすがに

置いていったら

家族が気づいた時に

困るよね涙

 

あき「うん、持って帰って

同じ場所にしまっとこうか。」

 

萬里「そうやね。

空になったとはいえ

萬里の車に乗せるの

嫌なんだけど。」

 

あき「萬里ちゃん、よろしくw」

 

実は、萬里は叔父ちゃんが

病気になって

家系図を作った時から

おみの事が妙に気になっていた

 

長男に何かがある。

という事に気付いたから

ってのもあるけど

 

子供の頃からを思い出すと

おみは暴れん坊で

一見、身体も強そうな子なんだけど

突然、おかしな病気に

なったりする事が多かった

 

それに関しては

萬里も似たようなもんだったから

そういう体質なのかな?

とも思ってた

 

実際、おみは就職してから

霊的な現象に見舞われる事が多くて

それについての相談を

萬里によくしにきてた

 

人の言うことを聞かない

自分が絶対で、頑固

自分の意思で自分を貫く長男おみは

なぜか萬里の言うことだけは

素直に聞いてた

 

だから、萬里と同調する

同じ感覚を持っているのなら

霊的な事も関係して

病気が多いのかな?って

特に気になってた

 

家系図の流れでいくと

次期、おみの番がくる

 

すごく不安な気持ちになって

現実になりそうな気がして

怖くも感じていた

 

でも、この刀を村さんが

浄化してくれたから

きっとその流れは

断ち切られるはず

 

しかし、まだ不安は消えない

叔父ちゃんの状態は、

すぐには

そんなに変わらなかったから

 

何か目に見えて

変化がわかれば

萬里はもっと安心できるのに・・・

 

何か絶対的

安心要素が欲しい

 

それから、叔父ちゃんの病気は

悪化するでもなく

回復するわけでもなかった

相変わらず、検査の繰り返しで

入退院が続いてる

 

でも、流れは緩やかな気がする

 

そうこうしてるうちに

おみは結婚した

そして、萬里と同じ誕生日の日に

女の子が生まれた

 

叔父ちゃんの初孫は

女の子

 

その時に、やっと

連なっていた

怨みの鎖が切れたんだ!って

確信持てた

 

女の子は

嫁に出ていく立場ではあるけど

主人にはならないから

長男の因縁はこれで終わり

 

そう思っていた・・・

 

叔父ちゃんの闘病は

続いていたけど

街の人達から押されて口説かれて

町議選に出る事になった

 

萬里も友達もみんなで

選挙カーに乗って

毎日応援した

 

叔父ちゃんは当選して

町議会議員さんになった

 

叔父ちゃんも正義感の塊で

曲がった事やズルいことが大嫌い

身体は万全ではないけど

何一つ欠席することなく

真剣に取り組んでいた

 

ちょうど、

町を大きく動かす出来事の寸前で

倒れてしまい

入院した

 

お見舞いにも

行ってはいけないって

言われたけど

気になってしょうがない

 

みんな病名も

教えてくれなかった

 

もう、面会していいよ!

会いに行けるよ!

 

って言われたのは

冬の寒い頃

消毒して

マスクをして入らないと

いけない部屋

 

痩せ細って、

酸素マスクをしている

元気な時の叔父ちゃんの

面影は無くなってた

言葉も喋れない

 

もう、回復の見込みがないから

萬里たちを病室へ

呼んでもらえたのだと悟った

 

でも目はしっかり

萬里を見てくれてる

瞬きで返事もしてくれる

 

なんて言葉かけたらいいのか

分からなかった

 

「叔父ちゃん、早く家に帰ろうよ。

萬里、子供連れて遊びに行くから・・・。」

 

その一言しか出てこなくて

耐えきれず部屋を出た

 

後から聞いた病名

骨髄線維症と白血病

最初に聞いてた

よく知らない病気から

誰でも聞いたことのある

大変な病気に進行してた

 

すごい苦しくて痛かったと思う

だけど叔父ちゃんは

闘病していた何年間もの間

一言も泣き言を言わなかった

と聞いた

 

見守る家族に残した

最後の言葉は

「来世でもまた家族になろう。」

 

叔父ちゃんは

最後までカッコ良かった

 

これは、「寿命だ」と

みんなが納得できた

 

 

 

 

今は平成30年

刀の出来事から、15年経った

 

おみの元には2人の女の子が

生まれ何事もなく

順調に育っている

 

怨みの鎖は切れたはずだった

 

なのに、おみは数年前から

行方不明・・・

 

あの刀が今どうなっているのかは

分からない

 

刀を見つけた時点で

恨みの念に触れてしまったから?

 

もっと早く気付いてあげられたら

状況は違ってたかもしれない・・・

 

もっと早く気付いていれば・・・

 

何度思ったことか

 

刀は、自分たちの

知らないところで

起こった出来事の

ツケだったのかもしれない

 

絶対に清算する必要があって

血の繋がりである家系が

それを知らずに無意識に

補ってきただけかもしれない

 

これが、この家の運命だと

言われればそうなのかもしれない

 

だけどやっぱり

萬里は未だに

なんとも言えない

悔しさを感じている

 

萬里の妹も

もう13年以上行方不明

 

全てが因縁とは限らない

 

家族に迷惑をかけて

親を悲しませてきた妹を

追い出したのは萬里自身

 

ここでは言えないような

出来事が長年続いた

萬里は家族のために

親の手を煩わせないようにと

必死でそれをフォローしてきた

 

妹がやった事で

家族が命の危機を

感じるような事もあった

 

家族とはいえ

人として

最低の行いばかりの妹に対し

尋常じゃない怒りでいっぱいだった

 

家族内では暗黙の了解のように

おみのことも

妹のことも口にすることはない

 

でも、

悪かったことは反省して

自分よりも、

人の事を考えられる

真っ当な人間になって

それぞれがそれぞれの場所で

幸せに暮らしているのなら

 

それでいいと思う

 

何をどうしようが

血の繋がりは消えないという事を

忘れずに居てくれれば。

 

『情けは人の為ならず』

人の為にやることは

巡り巡って自分の為になる

 

果ては、

子孫の為にもなる

 

って考えると、やっぱり

日頃の行いって大事だな。